世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

「一億五千万円問題」の黒幕

世相閻魔帳⑦「顕正新聞」令和3年6月25日号

 河井事件は、安倍が〝仇敵〟の溝手顕正氏(国家公安委員会委員長、防災相、自民党参議院議員会長等を歴任した自民党重鎮)を落選させる目的で、案里を〝刺客〟として送り込んだことが発端と言われている。
 溝手氏は、平成十九年七月の参院選安倍自民党民主党に惨敗した際、安倍の責任を追及したほか、平成二十四年二月にも安倍のことを「もう過去の人だ」と批判した。幼稚な安倍は、溝手氏から批判されたことを根に持っていたという。
 そして令和元年七月の参院選、溝手氏が広島選挙区に立候補した後、安倍は溝手氏の落選を画策。側近の甘利利明(選挙対策委員長)を動かし、首相補佐官を務めた克行の妻・案里を溝手氏と同じ選挙区に擁立させた。
 とはいえ、無策のまま案里が溝手氏の牙城に飛び込めば、返り討ちに遭うことは必至。そこで克行は、溝手氏の支援者等にカネをバラ撒いて「買収」するという〝現ナマ乱射〟に及ぶ。
 銃弾たる買収資金の原資は、自民党本部が河井夫妻に提供した異例の大金「一億五千万円」(溝手氏に提供した金額の十倍)との見方が大勢である。克行の「(原資は)ポケットマネー」との説明には根拠がない上に、案里陣営の会計責任者の供述調書には、〝買収罪の対象とされた三人の陣営スタッフへの計約二二〇万円は、自民党本部から支出された一・五億円が原資だった〟旨が記載されているという。
 克行のバラ撒きは効果抜群で溝手氏は落選、案里が当選を果たした。しかし、買収の事実が露見したことで、河井夫妻は刑事訴追された。

一・五億円提供の指示者

 では、買収資金の原資とみられる一・五億円を河井夫妻に提供することを指示したのは誰か。買収に使われることを認識した上で資金提供を指示した場合、その者は公選法違反(交付罪)に問われる可能性がある。
 この点、案里の後援会長だった繁政秀子(元広島県府中町議)は、克行から現金三十万円を渡された際、「『安倍さんから』と言われた」、「安倍さんの名前を聞き、断れなかった。すごく嫌だったが、聞いたから受けた」と、決定的な証言をしている。
 それだけではない。自民党本部から河井夫妻にカネが提供される度に、安倍は克行と単独で面会していた(表参照)。また、安倍事務所から安倍の筆頭秘書・配川博之ら複数名が案里応援のため広島に派遣され、克行からカネを受け取った相手のもとを訪問して支援を求めるという〝連携プレー〟を行っていたことも報道されている。大体、総裁の安倍に無断で一・五億円の提供を指示できる者などいないだろう。
 これらを踏まえれば、一・五億円の提供を指示したのは安倍で、それが買収資金に使われることを安倍が認識していた可能性も高いといえる。

一・五億円の行方

 疑惑は他にもある。克行がバラ撒いたカネは約二九〇〇万円とされている。諸経費の支出分や未発覚のバラ撒き分が存在すると仮定しても、巨額資金一・五億円のうち相応の金額が河井夫妻の手元に残っていそうなものだが、これが完全に消滅しているのだ。
 一体どこに消えたのか。克行は自民党機関紙の印刷費やポスティング費、事務所の内装・外装費用等に完全に使い切ったと説明するが、何とも疑わしい。
 一部で囁かれているのが、安倍事務所側への〝還流疑惑〟である。「週刊朝日」のオンライン限定記事には、当時安倍の秘書の案内役を命じられた県議の証言が掲載されている。
 「案里容疑者の選挙に自民党本部から1億5千万円の資金が出た時でした。私がお連れした方ともう一人の総理秘書官が、キャリーケースを持参してきていた。宿泊もしなかったはずなのに、どうしてそんな荷物が必要なのかと不思議でした。検事から事情聴取を受けたとき、雑談で総理秘書官のキャリーケースのことを話したら『何が入っていたか見ていないか』『現金は見なかったか』と何度も聞かれました」と。
 キャリーケースにカネをぎゅうぎゅう詰めて持ち帰ったのだろうか。

逃げ切りを許すな

 思うに、安倍は「官邸の番犬」こと黒川元検事長が昨年五月に失脚した際、これら一・五億円を巡る疑惑を追及されることを恐れたのではないか。だからこそ安倍は、万が一の場合に被る影響を最小限にするため、昨年八月、仮病を使って首相辞任という〝早逃げ〟をしたのではないか。
 もっとも、弱腰の検察は、安倍事務所や自民党本部への強制捜査に踏み切らなかった。黒川失脚後も検察が「飼い犬」であることに変わりはないらしい。何とも情けない話である。
 なお、米国最大級のニュースサイト「The Daily Beast」は、〝法務省の情報筋は、安倍が社会的制裁を受けて辞任する代わりに、安倍の関与が疑われるいくつかの事件捜査を終結する「取引」があったようだと語った〟という記事を公開している。これが事実だとすれば期待外れも甚だしい。
 安倍が首相を辞任しても、これらの疑惑が消滅したわけではない。安倍の逃げ切りを阻止すべく、〝安倍の安倍による安倍のための案件〟たる河井事件を徹底追及する必要がある。(天皷)