陰湿で露骨な安倍の言論統制

世相閻魔帳㉟「顕正新聞」令和4年4月25日号

 本年4月7日、朝日新聞社は同紙編集委員の峯村健司を停職1カ月の懲戒処分にしたことを公表した。峯村は米国や中国に詳しい新聞記者として、政権ベッタリの情報番組「ひるおび!」(TBS)にレギュラーコメンテーターとして出演している人物らしいが、今般の懲戒理由は驚くべきものだった。
 なんと峯村は、本年3月9日、安倍晋三元首相から朝日新聞とは無関係の週刊「ダイヤモンド」(本年3月26日号)に掲載される安倍のインタビュー記事のゲラ(誌面)を発売前に確認するよう依頼を受け、翌10日、同誌の副編集長に対し「安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている」「とりあえず、ゲラを見せてください」「ゴーサインは私が決める」と威圧的に要求し、副編集長が強く反発して断ってもなお「ゲラを安倍事務所に送るように」などと言ったというのだ。完全にどうかしている。
 仮にも報道に携わる者であれば、他社の記事に口出しすることが非常識で報道倫理に反する行為であることは百も承知のはず。まして元首相から依頼を受けて当該行為に及ぶことなど論外である。
 なぜなら、行政権の長たる首相の地位にあった者が、自身に不都合な記事が世に出回ることを防ぐ目的で、その内容を発表前に審査し、不適当と認めた記事の発表を禁止することは、憲法が保障する「報道の自由」の侵害に当たることは勿論、憲法が一切の例外を認めず絶対的禁止と規定している「検閲」にも匹敵する重大な違憲・違法行為に当たるからだ。
 しかし、峯村はそのことを露程も反省せず、それどころか安倍の「顧問」と称してゲラを見せるよう要求した際の状況等を、自らインターネット上に誇らしげに公開している。いわく
 「安倍氏から『先ほど週刊ダイヤモンドから取材を受けた。ニュークリアシェアリング核兵器の共有)についてのインタビューを受けたのだが、酷い事実誤認に基づく質問があり、誤報になることを心配している』と相談を受けました」
 「ジャーナリストにとって誤報を防ぐことが最も重要なことであり、今、現実に誤報を食い止めることができるのは自分しかいない、という使命感も感じました」
 「私は3月10日、A記者(※ダイヤモンド誌の副編集長)に電話をして、事実確認を徹底するように助言をしました。A記者からは『安倍氏に取材したのをどうして知っているのか』『ゲラをチェックするというのは編集権の侵害だ』などと強く反発されましたが、私も重大な誤報を回避する使命感をもって、粘り強く説得しました」
 「後で知ったこととしては、A記者はその後安倍氏側と事実関係の確認し、誤認を正したうえ、3月26日付けの同誌に無事に掲載されました」と。
 要するに、峯村は誤報を防ぐことが「最も重要」と嘯き、かかる意味不明な理屈で以て、安倍にとって都合の良い内容に書き換えさせるという〝権力者の言論統制〟に唯々諾々と加担したわけだ。ジャーナリスト失格と言わざるを得ない。

安倍による言論統制

 無論、峯村以上に狂っているのは安倍だ。
 安倍事務所は、安倍本人が峯村にゲラの内容を確認するよう依頼したことを認めたそうだが、元首相でありながら検閲に匹敵する所為に平然と及ぶなど到底許されない。この一事を以て〝政治家失格〟の烙印を押すに余りある。
 振り返れば、第二次安倍政権のメディアに対する圧力等は常軌を逸していた。幾つか例を挙げよう。
 平成25年12月、安倍はNHKの会長を「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と言って憚らない籾井勝人にすげ替え、公共放送を政権協力メディアに一変させた。
 また、安倍は平成26年12月の衆院選に際し、側近の萩生田光一の名前で在京キー局に「選挙時期における報道の公平中立ならびに公平の確保に関するお願い」と題する文書を送付したが、その内容は政権与党が報道や番組自体に介入して自らの希望どおりの報道を行うよう実質的に圧力をかけるものだった。
 さらに平成27年1月、「報道ステーション」(テレビ朝日)のレギュラーコメンテーターだった元経産官僚の古賀茂明氏が安倍批判を展開する中で「I am not ABE」などと発言したところ、番組放送中から安倍の右腕である菅義偉官房長官(当時)の秘書官だった中村格(現警察庁長官)がテレビ朝日の報道局ニュースセンター編集長に電話をかけたほか、「古賀は万死に値する」とのショートメールを送信する等の圧力を加えた。結果、古賀氏は前記発言の2カ月後に番組から降板させられた。
 余談だが、中村は安倍と昵懇の仲で安倍礼賛本を複数出版している元TBSワシントン支局長・山口敬之の伊藤詩織氏に対するレイプ疑惑事件の捜査の際、安倍を庇うために裁判所が発付した山口の逮捕状を握り潰している。
 同年11月には安倍のお友達や日本会議と親和性が高い輩が多数名を連ねる「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体が、「NEWS23」(TBS)のメインキャスターを務め、安倍を批判していた岸井成格氏をバッシングする内容の全面意見広告を〝安倍御用メディア〟の読売新聞と産経新聞に掲載する等の猛攻撃を加え、岸井氏を降板に追い込んだ。
 平成28年2月には、安倍と距離が近く、放送を管轄する立場にあった高市早苗総務相(当時)が衆院予算委員会で「電波停止」発言をし、テレビ局に脅しをかけてみせた。
 同年3月には「クローズアップ現代」(NHK)のレギュラーキャスターを番組開始時から務め、番組内で菅官房長官に対して安保法案に関する質問を粘り強く行うなどした国谷裕子キャスターの降板が決定した。その背後には安倍の圧力があったと噂されている。

メディアの腐敗は国家の崩壊に直結する

 こうした安倍の陰湿な言論統制にメディアは萎縮し、自ら政権の意向を忖度するようになり、番組等では政権批判の論調を抑え、橋下徹をはじめとする安倍のお友達を露骨に出演させるようになってしまった。
 実際、第二次安倍政権発足以降、国境なき記者団(RSF)が公表している「世界報道自由度ランキング」で日本は70位前後にランクダウン。アフリカ諸国と同じランクで、先進国の中ではほぼ最下位となった。
 厄介なことに、安倍の首相辞任後もこの状況は続いている。
 今改めて認識すべきことは、日本では珍しくない政治家のメディアに対する圧力行使や、メディア幹部と政治家の会食等は、いずれも先進国にあるまじき異常事態ということだ。アメリカではメディア関係者が政治家と会う時は「コーヒー1杯」が限度とされ、それ以上の飲食は「癒着」「ジャーナリズムの腐敗」と見なされる。これが先進国の常識だ。
 権力の監視者であるメディアが腐り果てて権力に諂い始めれば、国家もまた崩壊を始める。
 約8年にわたる独裁政権下において〝権力の監視者〟であるメディアからその使命を奪い去り、日本の亡国を加速させた安倍の罪は大きい。(天皷)