世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

権力に阿諛追従するマスコミの罪

世相閻魔帳55「顕正新聞」令和4年11月15日号

 原発問題や森友・加計・桜といった安倍に関する疑惑、各種政策の問題点等を政権に忖度せず真っ当に批判していたコメンテーターがまた一人、実質〝降板〟に追い込まれた。
 テレビ朝日の報道番組「羽鳥慎一モーニングショー」に毎回出演し、コメンテーターを務めていた玉川徹氏(同局社員)のことだ。
 玉川氏は本年9月28日放送の同番組で、世間からは「感動的」と称賛されていた安倍晋三国葬における菅義偉前首相の弔辞について「政治的意図がにおわないように、制作者としては考えますよ。当然これ、電通が入ってますからね」と日本最大の広告代理店「電通」が関与していたかのようなコメントをした。
 しかしその翌日、玉川氏は「電通は全く関わっていないということがわかりました」と前日の発言を訂正し、謝罪した。

安倍応援団のダブルスタンダード

 そうしたところ、主に安倍の国葬を支持していた評論家やネトウヨ等の安倍応援団が鬼の首を取ったように「デマを流した玉川を降板させろ」と猛烈な批判を一斉に開始した。
 本年3月に公職選挙法違反疑惑で刑事告発された自民党参院議員の西田昌司までも「玉川氏個人の謝罪ですむ話ではなく、テレビ朝日のあり方が問われる」「極めて重大な問題で、国政の場でも強く提起したい」などと色を作して喚き出す始末。
 だが、ちょっと待ってほしい。安倍応援団の面々は、首相在任中に国権の最高機関たる国会で「桜を見る会」問題だけで118回も虚偽答弁をした安倍に批判の一つでもしたのか。辞任を迫るどころか、むしろペテン師の安倍を擁護し、安倍のウソを追及する野党議員等を却って攻撃していたではないか。
 また橋下徹(政治評論家・弁護士)や三浦瑠麗(自称「国際政治学者」)など政権擁護を繰り返すコメンテーターの事実誤認やデマと評すべきコメントもスルーしている。
 しかるに今般、単なる事実誤認のコメント(しかも翌日に謝罪・訂正)をしただけの玉川氏には「デマを流すな」と猛批判し、テレビ朝日に圧力をかけて玉川氏の降板を迫った。こうした異常とも言える安倍応援団のダブルスタンダードには反吐が出る。
 かくして10月4日、テレビ朝日は玉川氏を「10日間出勤停止」の謹慎処分とし、番組関係者2人も譴責処分とした。

アベ友が仕切る審議会

 しかし、その後も玉川氏に対する批判は止まらず、同月6日に開かれたテレビ朝日の「放送番組審議会」でも、審議委員から「勘違いでは済まない」「(玉川氏は)もう画面には出ないほうがいいと思う」などと玉川氏を厳しく批判する意見が相次いだという。
 だが審議会の顔ぶれを見ては〝さもありなん〟と思わずにはいられなかった。
 審議会の委員長は安倍と昵懇で「日本の国は安倍さんじゃなきゃダメだ」と発言していた見城徹。見城はレイプ犯・山口敬之の安倍ヨイショ本をはじめ、安倍応援団が安倍を支援するために拵えた書籍を複数出版している「幻冬舎」の社長だ。
 他の委員も、首相公邸で見城らと共に安倍と秘密裏に食事したり、首相の安倍を自宅に招いたりするほど安倍と親密だった秋元康(作詞家)のほか、安倍応援団の「新経済連盟」で副代表理事を務める藤田晋サイバーエージェント社長)など、アベ友がやたらと多い。
 結局、玉川氏は謹慎処分明けの同月19日、同番組のレギュラーコメンテーターを実質的に降板する意向を表明した。

これまでのメディアへの圧力

 第二次安倍政権発足以降、メディアが官邸等からの圧力に屈し、厳しい政権批判を行うコメンテーター等が降板に追い込まれた事例は幾つもある。
 たとえば「報道ステーション」(テレビ朝日)のコメンテーターだった古賀茂明氏(元経産官僚)は平成27年1月、同番組で「I am not ABE」などと発言した後、当時、官房長官だった菅の秘書官を務めていた中村格(安倍銃撃事件で引責辞任した前警察庁長官)が番組関係者に「古賀は万死に値する」といったショートメールを送信するなど圧力をかけたという。古賀氏はその2カ月後に降板となった。
 同年11月にはアベ友や日本会議と親和性が高い上念司(経済評論家、加計学園が運営する岡山理科大学客員教授)や小川榮太郎(〝森友・加計事件は朝日新聞の虚報・捏造であり戦後最大級の報道犯罪〟という趣旨の安倍擁護本を執筆し、朝日新聞から訴えられて敗訴した御仁)などが名を連ねる団体「放送法遵守を求める視聴者の会」が、「NEWS23」(TBS)のメインキャスターで安倍を批判していた岸井成格氏をバッシングする内容の全面意見広告を「読売新聞」と「産経新聞」に掲載し、岸井氏を降板に追い込んだ。
 平成28年3月には「クローズアップ現代」(NHK)のレギュラーキャスターを番組開始時から務め、番組内で当時官房長官だった菅に対して安保法案に関する質問を粘り強く行った国谷裕子キャスターの降板が決定した。その背後には官邸の圧力があったと噂されている。
 かくして今やマスコミは自ら政権の意向を忖度し、率先して政権擁護を繰り返すコメンテーター等を番組に多く起用する為体。何とも情けない。

卑怯な報道姿勢

 最近はマスコミの卑怯な報道姿勢も目に付く。
 たとえば、現在マスコミは歴史的な円安について連日報道しているが、こうした事態に陥ることはアベノミクスが始まった約10年も前から分かりきっていた話だ。
 しかるにマスコミはアベノミクスをずっと好意的に報じ、無智な国民を〝アベノミクスで日本経済が回復できる〟と欺いた。そして未だにアベノミクスの失敗を正面から報じようとしない。
 批判を忘れたマスコミは単なる政権の「広報」機関でしかない。安倍とマスコミは共犯関係にあると言ってよい。
 また政治家と統一教会の癒着に関する報道姿勢も同様だ。
 マスコミは、統一教会とズブズブで総裁の韓鶴子との写真撮影にも応じるなどしていた山際大志郎自民党衆院議員)を連日槍玉に挙げて報道し、同人を経済再生相辞任に追い込むことに一役買ったが、山際と統一教会が結びついた背景に、安倍とは別ルートで統一教会と繋がりを有していたと思しき菅の存在があることを殆ど報じていない。
 加えてマスコミは、細田博之衆院議長)や萩生田光一自民党政調会長)がそれぞれ山際以上に統一教会と濃密な関係を有していた疑惑に関する報道もピタリと止めてしまった。
 細田は令和元年10月、韓鶴子が出席した統一教会のダミー団体のイベントに出席。最前列の中央に着席していた細田韓鶴子が会場に入場すると起立して拍手を送り、「韓鶴子総裁の提唱によって実現した、この国際指導者会議の場は大変意義が深い」「今日の会議の内容を安倍総理に早速報告したい」などとスピーチして韓鶴子を持ち上げた。
 萩生田光一は過去に統一教会の八王子教会で「私もご父母様(文鮮明韓鶴子)の願いを果たせるように頑張るから、皆さんも一緒に頑張りましょう」「一緒に日本を神様の国にしましょう」などと訴えていたと、元信者等が暴露している。
 日本を食い物にする反社会的邪教集団のトップに賛辞を送り、尚かつセクハラ疑惑まで浮上している細田衆院議長という「三権の長」に居座り、また〝統一教会の理想実現のために頑張る〟と宣う萩生田が政権与党である自民党政調会長(党として如何なる政策を打ち出すかを取りまとめる責任者)の地位に就いていることは、山際が閣僚であったこと以上に大問題だろう。ところが、マスコミはこれらの問題を徹底追及しない。
 ちなみに、菅・萩生田はいずれも過去に報道機関等に圧力をかけた疑惑がある。所詮、マスコミは真に問題とすべき巨悪に対しては圧力を恐れて黙殺し、その代わりに叩きやすそうな人物をスケープゴートにして徹底的に叩くことで己の職責を全うしているかのように国民の前で演技しているに過ぎない。
 「権力の監視者」たる使命を忘れたマスコミの存在が腐敗した権力の自浄作用を失わせていく。マスコミは卑怯で弱腰な報道姿勢を改めるべきである。(天皷)