世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

河井事件にみる検察・大手メディアの堕落ぶり

世相閻魔帳86「顕正新聞」令和5年10月5日号

 憲政史上最大規模の買収事件である「河井事件」に関し、「中国新聞」が事件の核心に迫る大スクープを報じた。ところが悲しいかな、これを後追いで報じた大手メディアはほとんど無い。
 以下、河井事件の概要を簡単に振り返り、検察と大手メディアの度し難いまでの腑抜けぶりについて述べる。

河井事件の概要

 河井事件の発端は、亡国の政治家たる安倍晋三が〝私怨〟を晴らすため、仇敵である溝手顕正氏(国家公安委員会委員長自民党参議院議員会長等を歴任した自民党重鎮)の落選を画策したことだ。
 平成19年の参院選自民党が惨敗した際、溝手氏は「首相本人の責任」と安倍を批判し、平成24年2月にも「もう過去の人だ」と安倍をこき下ろした。それ以降、幼稚で陰湿な性格の安倍はずっと溝手氏を恨んでいたという。
 令和元年7月の参院選で広島選挙区に溝手氏が立候補すると、安倍は溝手氏を落選させるため、自身の補佐官を務めた河井克行(元法務相)の妻・案里を〝刺客〟として溝手氏と同じ選挙区に送り込んだ。
 しかし溝手氏の堅固な牙城を案里が崩すことは容易ではない。そこで克行は溝手氏の支援者等に合計約2900万円のカネをバラまいて票の買収をするという犯罪(公職選挙法違反)に手を染める。
 安倍も自ら広島に駆け付けて案里の応援演説をする一方で、克行からカネを受け取った相手のもとに筆頭秘書の配川博之らを派遣し、案里支援の約束を取り付けるなど溝手陣営の切り崩しを行った。また自民党本部が溝手氏に提供した資金は、案里の約10分の1だったという。
 その結果、安倍の全面支援を受けた案里が当選を果たし、溝手氏は落選した。
 ちなみに安倍は溝手氏の落選について「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)の中で、「2人当選が無理だというのは、甘えでしょう」「負けた責任を自民党執行部に押しつけるのは、筋違い」と辛辣に言い放っているが、この男のおぞましいまでの執念深さを顕す言葉である。
 その後、買収の事実が判明して河井夫妻は刑事訴追され、克行は懲役3年の実刑判決(現在服役中)、案里は懲役1年4カ月・執行猶予5年の有罪判決が確定した。
 なお、後に案里は「黒川さん(元東京高検検事長も私も同じように権力闘争のおもちゃにされてしまって、権力の恐ろしさ痛感します」と、ノンフィクションライターにメールを送信している(常井健一「おもちゃ河井案里との対話」)。
 案里本人も自覚しているとおり、所詮、河井夫妻は安倍にとって都合のいい〝おもちゃの兵隊〟〝捨て駒〟に過ぎなかったと言えよう。

中国新聞のスクープ

 さて、河井事件の最大の謎は克行がバラまいたカネの出所、すなわち「買収の原資が何か」であった。
 これについては関係者の供述等から、自民党本部(と言うよりも総裁の安倍)が河井夫妻に提供した異例の大金「1億5千万円」(溝手氏に提供された金額の約10倍)が買収の原資である可能性が高いと目されていた。実際、自民党からカネが振り込まれる度に、安倍と克行は単独で面会していた上に、1億5千万円の使途は未だ明確になっていない。
 そこに今般、河井夫妻の有罪判決が確定した後も事件について粘り強く取材していた「中国新聞」がスクープを報じた。
 令和2年1月、検察当局は克行の自宅マンションを家宅捜索した際、安倍をはじめ安倍政権の幹部4人から、1億5千万円とは別に現金合計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見・押収していたというのだ。
 以下、中国新聞の記事を引用する。
 〈関係者によるとメモはA4判。上半分に「第3 7500万円」「第7 7500万円」と書かれ、それぞれ入金された時期が付記されている。その下に「+(プラス)現金6700」と手書きで記され、さらにその下に「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされていた。
 「第3 7500万円」と「第7 7500万円」の記載について東京地検特捜部などの検察当局は、自民党本部が参院選前の19年4~6月に克行氏の自民党広島県第三選挙区支部と妻の案里氏(有罪確定)の党広島県参院選挙区第七支部に振り込んだ各7500万円(計1億5千万円)と分析。「+現金6700」は1億5千万円に加えて6700万円が現金で提供され、「総理2800」などの記述は内訳を記しているとみている〉(中国新聞デジタル本年9月8日)と。

買収の原資か

 このメモの記載は誰がどう見ても、河井夫妻が自民党本部から提供を受けた1億5千万円とは別に、安倍(総理)・菅義偉(すがっち)・二階俊博(幹事長)・甘利
明(甘利)の4名から現金合計6700万円の提供を受けていたことを窺わせる。
 そこで中国新聞の取材班は、死亡して取材不能な安倍を除く菅・二階・甘利の3名への取材を敢行したところ、菅と二階は現金提供の事実を否定したが、甘利は陣中見舞いの名目で克行に100万円を提供したことを認めたという。
 キリスト教徒である克行は捜査の段階で「買収の原資はポケットマネー」などと言い、公判でも「神の前で誠実であることが第一」などと世迷言を吐いていたが、結局、安倍をはじめとする安倍政権の幹部から提供された資金が買収の原資だったと言えそうだ。

検察が政権に忖度

 理解できないのは検察の対応だ。
 捜査に関して全くのシロウトでも、このようなメモを見れば「安倍・菅・二階・甘利から提供された現金が買収の原資だったのではないか。彼等を呼び出して取調べを行ったり、家宅捜索を行ったりする必要がありそうだ」との考えに至る。
 捜査のプロである検察官、しかもその中でもエリートで構成される東京地検特捜部の面々なら猶更だろう。しかし東京地検特捜部がそのような捜査をしたという報道は、これまで一切目にしていない。
 それもそのはず、なんと特捜部はメモの存在を知りながら、安倍政権に忖度して事件の全容解明のために当然行うべき捜査を尽くさず、安倍らに対して家宅捜索はおろか、任意で取調べに応じるよう要請することすらしなかったというのだ。
 また法律上、特捜部が行う克行の取調べは、克行本人が拒絶しない限り、全て録音・録画する決まりになっていた。これは特捜部の検事が違法な捜査をしていないか、また被疑者(克行)が取調べで何を話したかといったことを、後日に映像等でチェックできるようにするためと言われている。
 しかし中国新聞の報道(「検察、安倍政権に忖度か 政権幹部4人の捜査に及び腰【ばらまきの源流】㊥」)によれば、特捜部の担当検事は克行から「総理2800」などと記載されたメモについて取調べるにあたり、わざわざ克行に録音・録画を拒絶することを打診したというのだ。
 要するに、たとえ克行が安倍からカネをもらったと暴露しても安倍政権にダメージが及ばないようにすべく、そのやりとりが録音・録画に残らないよう検事の方で不要な配慮をしたと言えよう(だが結局、克行はメモについて何ら供述しなかったという)。
 なお米国最大級のニュースサイト「The Daily Beast」が令和2年8月28日付けで配信した記事には、〝法務省の情報筋は、安倍が社会的制裁を受けて辞任する代わりに、安倍の関与が疑われるいくつかの事件捜査を終結する「取引」があったようだと語った〟とある。仮にこれが事実だとすれば、検察の正義などは地に堕ちたも同然だ。

大手メディアの腑抜けぶり

 一方、大手メディアの腑抜けぶりも看過できない。
 冒頭で述べたごとく、先に紹介した中国新聞のスクープを後追いで報じた大手メディアはほとんど無いのだ。安倍の死後もなお、「権力の監視者」たる使命を忘れたメディアの存在が、権力を腐敗させていくことは論を俟たない。
 このことはジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川の性加害問題を見ても明らかだ。
 創業者のジャニー喜多川が事務所のタレントらに対して性加害に及んでいたことなど、メディア関係者なら本年3月にBBC(イギリスの公共放送)が報じる遥か以前から聞き及んでいたに違いない。だが大手メディアは事務所との関係性を良好に保つため頬かむりし、同人と事務所に長年媚び続けた。
 しかるに今になって大手メディアは世論に乗じ、自分たちがこの問題を無視黙殺し続けていたことを棚上げして、新社長らに対して「性加害について知っていたのではないか」などと嬲るように追及し、正義を気取ってみせたわけだが、あまりに卑怯で醜悪としか言いようがない。

国民の負託に応えよ

 国民の負託を受けて刑罰権の適正な行使を担うべき検察も、権力を監視して国民に必要な情報を取材・報道すべき大手メディアも、真に問題とすべき巨悪には圧力等を恐れて切り込まず(むしろ媚び諂い)、その代わりに叩きやすそうな人物をスケープゴートにして徹底的に叩き、あたかも自らの職責を全うし、正義を体現しているかのように装う卑怯・卑劣なパフォーマーに成り下がってしまった。
 そのような体たらくだからこそ、非常識かつ無知・無能・無責任の安倍の横暴を止めることができず、アベノミクスをはじめとする明らかな亡国政策、さらにはこれまでに類を見ないほど大規模な公文書改ざんや買収事件等という大それた犯罪が平然と行われる事態を招いたといえよう。
 検察も大手メディアも猛省すべきである。(天皷)