世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

日本の経済・財政・金融を壊したアベノミクスの大罪

世相閻魔帳54「顕正新聞」令和4年11月5日号

 本年1月、浅井先生は「米国の利上げが始まる本年こそ、日本が金融崩壊・経済崩壊へ向かうターニングポイントになる」と指導下されたが、インフレ昂進を受けてアメリカをはじめとする海外の中央銀行が金融引き締めに向かうなか、それに反して日銀の黒田東彦総裁が強力な金融緩和を粘り強く続ける姿勢を示したことで、本年3月以降、外国為替市場ではつるべ落としのように円安が進行している。
 この間に円安や物価高の影響で倒産に追い込まれた企業の数も増加。本年10月のロイター企業調査で〝1ドル145円超の円安には対応不可能〟との認識を示した企業が75%に上ったことを見ても、このまま円安が進めば倒産に追い込まれる企業は増加していくだろう。
 本年10月15日、米国のバイデン大統領が「ドルの強さに関しては心配していない」「アメリカ経済は物凄く強い」とドル高を容認した一方、黒田総裁は同月17日の衆院予算委員会で日本経済の下支えのため「金融緩和を継続することが適当」との考えを改めて示した。
 すると同月21日の夜には1ドル151円94銭という平成2年以来およそ32年ぶりの円安を更新した。第二次安倍政権発足前の平成23年10月の円相場は1ドル75円。当時と比較すると円の価値は半分になってしまった。
 今後も日米の金利差がさらに拡大することを踏まえた円売りが一段と進むことが想定される。

進退窮まる政府・日銀

 円安を止めるには、現状のマイナス金利を解除して政策金利を上げ、長期金利を0%から0・25%程度に誘導するイールドカーブコントロール(日銀が国債を買い入れて利回りが上がらないようにする特異な政策)を変更するしかない。
 しかし金利が上がると国債価格は下落するため、政府の下請けとなって爆買いした多額の国債に含み損が発生し、日銀は実質的な債務超過に陥ってしまう。
 また1200兆円を超す債務をかかえる政府の金利負担が増加し、財政破綻が現実味を帯びてくるため、日銀は現行の政策を易々と変更できない。
 そこで政府・日銀は本年9月より、「円買い・ドル売り」の為替介入を24年ぶりに実施して円安を止めようとしたが、多額の外貨準備を費やしたこの為替介入の効果は僅かの日数で消滅してしまった。
 まさに現在の日本の経済状況は進退窮まり、「金利上昇を許容すれば日銀が債務超過に陥って金融崩壊・経済崩壊」、「金利を上げなければ円安がさらに進行し、エネルギー・食糧等の輸入品の価格が高騰し、インフレがますます昂進」という痛し痒しの状況にある。
 なぜ日本がかかる状況に追い込まれたのか。その原因こそ、安倍晋三と黒田総裁が二人三脚で推し進めた世紀の愚策「アベノミクス」に他ならない。
 安倍は「通貨の番人」たる日銀にその使命を放棄させ、政府の下請けとして国債を爆買いさせて禁じ手たる事実上の「財政ファイナンス」を行わせ、また株高を演出するために上場投資信託ETF)を通じて大量の日本株も買わせた。ために日銀は前述のとおり、進退両難の状況に陥ってしまった。

「日本バーゲンセール」

 しかるに岸田首相は猶もアベノミクスを容認し、国民生活を苦しめる円安を食い止めようとするどころか、もはや打つ手なしの状況に開き直って「円安のメリットを生かす」などと妄言を吐き、安倍と同じくインバウンド(訪日外国人を誘致して消費を促すビジネス)を拡大して経済再生を図るという愚策を真顔で打ち出す始末だから呆れる他ない。
 要するに岸田は外国人観光客等の「爆買い」に期待し、彼らに日本を安く買い叩かせる「日本バーゲンセール」を行うと宣言したわけだが、これは発展途上国の発想である。
 しかも円安局面を利用したインバウンドの拡大によって外人から安く買い叩かれるのは、日本で販売されている商品やサービスだけに止まらない。外資系企業は低賃金で雇われている日本の優秀な技術者等を割安で獲得し、また世界の投資家等は日本の不動産や企業を安く買い叩き始めている。
 実際、北海道や沖縄といった日本の人気観光地の不動産はすでに中国人等に爆買いされているが、今後こうした動きが加速すると見るべきだろう。

日本の国力は衰退

 しかし現段階では先端技術産業を発展させて経済再生を図ることも望めない。輸出大企業はアベノミクスによる「低金利・株高・円安」という〝胡座をかいていても儲かる環境〟に甘んじてしまい、その間に技術力や競争力が低下し、今や日本の国力は東アジアの国・地域との比較においても劣後するほど衰退してしまったからだ。
 世界知的所有権機関(WIPO)が本年9月に発表した「世界技術革新ランキング」で日本は13位だが、韓国は6位、中国は11位と日本より上のランクである。
 またスイスの国際経営開発研究所(IMD)が本年9月に発表した「世界競争力ランキング」で日本は昨年から3つランクを落として過去最低の34位(中国は16位、韓国は27位)。ちなみに平成元年から平成4年まで、日本は同ランキングで4年連続1位だった。
 同じくIMDが本年に発表した「世界デジタル競争力ランキング」でも日本は29位と低迷(韓国は8位、台湾は11位、中国は17位)。日本の国力の衰退ぶりは顕著だ。
 なお近年、日本は目先の経済的利益につながる応用研究に集中投資し、すぐに成果の出ない基礎研究を軽視する方針を採っているが、基礎研究をおろそかにして応用研究の成果が出るとは考え難い。そのため今後しばらく日本では技術革新が起きない可能性もある。
 無論このバカげた方針を打ち出したのも安倍だ。

アベノミクスの大罪

 畢竟、アベノミクスゾンビ企業を多く生み出して日本の産業を空洞化させた挙げ句、日銀の財務内容を著しく悪化させ、政府の財政赤字をGDP比260%超という世界最悪の状況にし、日本を破産寸前の状態に追い込むものでしかなかった。
 もはや日銀が債務超過に陥るのは不可避だろう。そのような中央銀行の紙幣など市場の信認を失い、円は瞬く間に暴落し、日本は制御不能ハイパーインフレに襲われる。そして日本の経済崩壊は国内だけに止まらず世界に及び、「前代未聞の大闘諍」たる第三次世界大戦を誘発する。
 「アベノミクス」という亡国政策を推し進めた安倍の罪は余りに重い。(天皷)