世相閻魔帳79「顕正新聞」令和5年7月25日号
連日世間を騒がせているマイナンバーカード(以下「マイナカード」)をめぐる問題は、デジタル大臣・河野太郎の無責任で人を食ったような対応により収束の兆しが全く見えないどころか、第1次安倍政権が崩壊したきっかけの一つでもある「消えた年金記録問題」のように、岸田政権にとって致命傷になる可能性も出てきている。
普及に躍起な政府
マイナカードとは、氏名・住所・生年月日・性別・本人の顔写真・臓器提供の意思表示、そして政府が日本国内の全住民に割り振った一生不変のマイナンバー(外部に漏洩しても原則として変更不可)が記載された身分証明書だ(作成は任意)。
政府はマイナカードを普及させるために、平成28年から「コンビニで証明書(住民票等)の発行ができる」「保険証として利用できる」「スムーズに給付金を受け取ることができる」などと利点だけを強調し、1兆8千億円も費やして〝マイナカードを作成してマイナンバー・保険証・公金受取口座を登録したら2万円分のポイント付与〟という「エサ」を撒くなど躍起になっていた。
しかし麻生太郎副総理兼財務相(当時)が「持ってるけど使ったことないんだよね。(使う機会は)ほとんどないはずだね。オレに言わせたら必要ねぇもん。何でやんだよ」「使う必要がないものにいくらカネかけてるか知ってます?……アホらしいんで聞いてられないんですよ」(令和元年9月3日の定例会見)と発言していたことを見ても、本来マイナカードは必要性ゼロの代物だ。
ゆえに政府が巨費を投じてエサを撒いてもなお、昨年8月末時点でマイナカードの普及率(人口に対する交付枚数の率)は47.4%と半数以下だった。
任意から強制へ
思いどおりにマイナカードが普及しないことに腹を立てたのか、河野太郎は昨年10月に突如、紙やプラスチックカードの従前の保険証を令和6年秋に廃止してマイナンバーに登録された保険証(マイナ保険証)に一本化すると宣言した(本年6月2日に関連法案成立)。
これによりマイナカードの性質は「無くても困らない」から「無いと困る」に一変。マイナカードの作成を事実上強制したのだ(それでもマイナカードを作らない人は「資格確認書」を毎年申請して取得しなければならず、しかも資格確認書の場合はマイナ保険証と比較して医療費が割高になるというフザケた話)。
問題が続出
しかしマイナカードをめぐっては、マイナ保険証や公金受取口座に別人の情報が紐づけられていたり、マイナカードを使ってコンビニで証明書を申請したら別人のものが交付されたり、マイナカードを作ったことでもらえるはずのポイントが別人に付与されたりと、あり得ない問題や事件が続出している。
ことに深刻な問題はマイナ保険証の別人登録だ。別人の医療情報が登録されていれば誤った薬が投与されるなど適切な治療を受けられない恐れがある。
またマイナ保険証を使うためには4桁の暗証番号が必要となるため、暗証番号を忘れてしまった高齢者や認知症患者、意識を失っている患者には保険が適用されない可能性もある。
紙やプラスチックカードの従前の保険証なら病院や介護施設の職員等に預けることができるが、マイナ保険証の場合はそれができない。仮に暗証番号を書いた紙を預けた場合、それを預かった人はマイナポータルに紐づけられた全ての個人情報にアクセスできてしまうため、犯罪に悪用されるリスクも生じる。
その他、データ不備のためにマイナ保険証が「無効」扱いされてしまい、病院からいったん10割負担の費用を請求された事例もすでに多数発生している。
河野太郎はこれら続出する問題を「ヒューマンエラー(人為的ミス)」などと嘯き、各自治体に「秋までに総点検しろ」とシレッと命じてみせたが、そもそもは〝令和6年秋に従前の保険証を廃止する〟と突如宣言し、現場を混乱させた河野の責任だ。この無責任男に振り回されて余計な業務を強いられる自治体職員にしてみれば堪ったものではない。
警察庁や外務省も危惧
だいたい現在続出している問題を解消したところで、マイナカードそれ自体が孕んでいる危険性が解消されるわけではない。
実は平成27年11月、情報管理に人一倍敏感な内閣官房・警察庁・公安調査庁・外務省・防衛省は連名で、マイナカードと国家公務員の身分証の一体化に反対する書面を政府に提出していた。
警察庁等はマイナカードを身分証とする問題点を「紛失・盗難等により、職員の氏名、住所、年齢等を所属省庁とともに把握できる」とし、外国情報機関等が取得したり一般人がネットで拡散したりすると「職員やその関係者に対する危害・妨害の危険性が高まる」と指摘した。無論、かかる危険性は国家公務員に限られたものではない。
しかも万が一4桁の暗証番号が他人に知られれば、氏名・住所・年齢だけでなく、それに紐づけされた機微な個人情報(世帯・税・健康・医療・子育て・福祉・介護・雇用・年金の情報の他、今後、銀行口座・運転免許証・学校の成績等ありとあらゆるものが紐づけられていく)が全て把握されてしまう。
ちなみに「マイナポータル利用規約」には「利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」(第26条)と定めてある。政府はいざという時の逃げ道だけはチャッカリ確保しているのだ。
世界の流れに逆行
そもそも先進7か国(G7)の中で共通番号に様々な情報を紐づけ、その番号が記載されたカードの発行を事実上強制している国は日本だけだ。
イギリスは平成18年に国民IDカード法を成立させたが、平成22年に人権侵害の恐れがあることなどを理由に廃止。ドイツは過去にナチスが共通番号によってユダヤ人らをあぶり出して虐殺したことの反省から、共通番号自体が存在しない。
アメリカには一生変わらない社会保障番号なるものが存在し、それが印字されたカードも一応は存在するが、カードの発行は飽くまで任意であり、またカードには「DO
NOT CARRY IT WITH YOU」(持ち歩くな)と警告文が記載されている。ゆえに日本のマイナカードとは全く性質が異なるものと言えよう。
かく見れば「日本はデジタル化において世界から後れをとっている」との理由で政府がマイナカードの普及を進めることはペテンでしかない。
巨大なマイナ利権
なぜ政府は深刻な問題が噴出して底なしの様相を呈しているのに、意固地になって世界の動きに逆行する「マイナカードの普及」に躍起になるのか。考えられる理由は2つある。
1つ目は「利権」だ。
「マイナンバーの事業規模は約1兆円といわれている。トラブル続きのシステムを納入している富士通の子会社を筆頭に、多くの企業が事業に群がっている。マイナカードは定期的に更新され、そのたびに医療機関は1台50万円は下らない新しい読み取り機を導入することになる。全国に医療機関は約18万もある。この先、継続的に巨額の費用が必要になるのは必至で、巨大利権になるのは間違いない。もちろん、潤った企業から自民党議員に、献金やパーティー券といった形でキックバックされるのは政界の常識である」(「日刊ゲンダイ」本年7月8日)
「(マイナカード関連事業を受注している)NTTデータにNEC、日立製作所に富士通……自民党に2億4000万円を寄付しているこの4社は、総務省をはじめ関係省庁の閣僚が『回転ドア』をくぐって大量に天下りしている企業でもあるのです。(中略)平井卓也初代デジタル大臣の元職場である広告代理店・電通には、2万円のマイナポイントキャンペーンの事務費用から150億円の再委託費用、そしてCM製作費(初回24億円+49億7000万円=73億7000万円)が流れ込みます」(堤未果「堤未果のショック・ドクトリン」)と。
全国民の保有資産の把握
2つ目は「全国民の保有資産の把握」だ。
身分証明書がマイナカード一本となれば、銀行口座の開設や不動産・株式等の売買の際にもマイナカードを提示することになる。これにより政府は全国民の保有資産を把握することができる。その目的は偏に、アベノミクスによって不可避となった国家破産に備えるためだろう。
かねてより浅井先生はアベノミクスの異次元金融緩和が必ずハイパーインフレを招いて国家破産に至ること、またかかる非常事態を解決するには国家が徴税権を駆使して国民から重税を搾り取る以外にないこと、その実例としてかつて日本が敗戦の翌年に国家破産した時に政府が打った手を次のごとく指導下された。
「『国家非常事態宣言』を宣言し、『財産税』の徴集を始めた。まず『預金封鎖』で資産を差し押さえ、『新円切り換え』によってタンス預金をすべてあぶり出し、財産税で国民の資産を根こそぎ召し上げた。保有資産額に応じて適用される累進税率は、最高税率がなんと90%という苛酷なもので、国民は塗炭の苦しみに陥った。
このように、国家が財政破綻すれば、最終的には国民がその尻ぬぐいをさせられる。安倍晋三の約八年にわたる異次元金融緩和の尻ぬぐいをさせられる日も、まもなくと思われる。だがそのとき、政治家は一人も責任を取らないのである」と。
あらかじめマイナンバーで全国民の保有資産を把握しておけば、いずれ国家破産に陥った時に速やかに「財産税」を課して国民の資産をスピーディーに根こそぎ召し上げることが可能となる。
畢竟、マイナカードは亡国の政治家どもが利権で甘い汁を吸い、アベノミクスの悪政によって国家破産した時のための準備と言い得る。
「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」などと甘言を弄してそれを問答無用で推し進める岸田や河野のペテン性に気づくべきである。(天皷)