世相閻魔帳69「顕正新聞」令和5年4月15日号
本年2月に出版された「安倍晋三回顧録」(中央公論新社、以下「回顧録」)が巷間で話題だ。
安倍晋三が回顧録の中で「できるだけ会い、意思疎通を重ねるようにしました」と明かしている日本会議の旗振り役・櫻井よしこは、これを絶賛し
「本書を残して下さったこと、安倍総理が如何に全力で戦っていたか、その記録を残して下さったことに私は深く感謝している。そして思う。安倍総理の闘いはなんと国を想う知恵と戦略に溢れていることか、国民への優しさに満ちていることか」などと歯が浮くような言辞を弄している。
他の安倍応援団や自民党議員等の面々も回顧録を賞賛。もはや彼らにとって回顧録は〝安倍の肉声を収めた経典〟のようになりつつある。
一方、通販サイトのレビュー欄には「安倍の悪事を官僚に責任転嫁する内容。念の為と思って目を通したが、やはりカネを無駄にしただけだった」「安倍晋三を美化する本でしらけました」「手柄は自分、ミスは他人。言い訳のオンパレードで見苦しい」「言語道断で不愉快な気分になる中途半端で虚偽的な回想録」といった批判も見受けられた。これらは正鵠を射た指摘と言える。
この回顧録の特徴は、安倍の「責任転嫁」「疑惑のゴマカシ」「自己アピール(自慢話)」の3つに尽きていることだ。
しかも不都合な事には全く言及していない。要するに安倍政権の歴史を都合よく虚飾した典型的な「プロパガンダ本」なのだ。
安倍と読売の合作
回顧録の出版に関わったのは安倍のほか、「読売新聞」及びその関係者、そして警察庁警備局外事情報部長等を歴任した公安畑の警察官僚で「内閣情報調査室」のトップ(内閣情報官)として安倍に重用された〝官邸のアイヒマン〟こと北村滋(元国家安全保障局長)だ。回顧録の著作権も安倍晋三、読売新聞、北村滋の三者に帰属している。
なお北村は昨年6月、読売新聞が筆頭株主の「日本テレビホールディングス」とその子会社の「日本テレビ放送網株式会社」の監査役に天下りしている。また回顧録を発行した「中央公論新社」も読売新聞の完全子会社である。
つまり今般の回顧録は、中立的な立場で作成されたものでは全くなく、安倍と読売がタッグを組んで完成させたシロモノなのだ。
安倍政権の広報紙「読売」
読売といえば、平成27年5月22日に「加計問題」に関して安倍を批判した前川喜平氏(元文部科学事務次官)の「出会い系バー通い」をスクープし、あたかも前川氏が代金交渉までして買春をしたかのように報じたことが思い出される。
これは北村が内調ルートで情報を収集し、それを安倍官邸が読売にリークしたものと見られている。読売のスクープによって前川氏は釈明に追われた。
また同年11月、アベ応援団が名を連ねる報道圧力団体「放送法遵守を求める視聴者の会」が作成した〝安倍政権に批判的な岸井成格氏(当時「NEWS23」のメインキャスター)をバッシングする内容の全面意見広告〟を掲載し、真っ当に安倍政権を批判していた岸井氏を番組降板に追い込むことに加担したのも読売だ。
さらに安倍が平成29年に憲法改正を発信する場として選んだのも読売だった。当時、安倍は国会で「自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟読していただいて」などと答弁している。
このように読売は安倍が窮地の時に助け舟を出したり、安倍の考えを広く知らしめたりと、「安倍政権の広報紙」のような役割を果たしてきた。こうした経緯を見れば、今般のプロパガンダ本の作成を読売が請け負ったのも必然と言えよう。
言いたい放題の安倍
回顧録において、安倍の「聞き手」を務めたのは橋本五郎(読売新聞特別編集委員)と尾山宏(読売新聞論説副委員長)だ。橋本は安倍と会食する間柄で、自身がコメンテーターを務める日本テレビ(読売グループ)の情報番組「スッキリ」では安倍を度々擁護していた御用ジャーナリストだ。
その面目躍如と言うべきか、橋本らは回顧録のインタビュー時に安倍が事実に反する内容等を語っても何らの指摘もしない。そのため安倍は調子に乗って言いたい放題。ゆえに回顧録の随所に安倍の「幼稚」「愚劣」「冷酷」な人間性が強烈に滲み出ている。例えばこんな感じだ。
「(平成26年のダボス会議で豪州のアボット首相が)首脳会談を求めてきたのです。私は前年の12年に靖国神社を参拝していたので、『歴史修正主義者だと文句を言われるのかな。面倒だな』と思って断ったのですが……仕方がないので、年次総会の会場内で、短時間会ったのです」
「(アベノマスクは)いろいろ言われましたが、私は政策として全く間違っていなかったと自信を持っています」
「麻雀の一件がなければ、黒川さんは検事総長になっていたでしょうね。賭け麻雀といっても、レートは1000点100円のテンピンだったんでしょ。普通のサラリーマンでもやっています」
「(アベノミクスは)当時の日本経済団体連合会(経団連)会長からも、無鉄砲な政策と言われてしまいました。自民党総裁の掲げた政策をそこまで言うか、と思い、経済財政諮問会議の議員から外れてもらいました」等々。
回顧録はこうした記述ばかりゆえ、読み進めていくうちにどんどん気分が悪くなっていく。それが頂点に達したのは、安倍が「森友事件」に言及した箇所だった。
森友事件に見る安倍の人間性
周知のとおり、安倍は森友事件が浮上した際、「私や妻が、もし小学校の設立や国有地払い下げに関与していたら、総理大臣はもとより国会議員も辞任する」と国会で大見栄を切った。その直後より財務省は公文書から安倍と妻の昭恵、そして日本会議に関する記述等を削除する犯罪に手を染めた。不憫にも改竄作業を強いられた近畿財務局の赤木俊夫氏は自責の念に耐えかねて自殺してしまった。
このように自らの国会答弁が発端で死人まで出したにもかかわらず、安倍は森友事件について次のように語っている。
「正直、改竄せずにそのまま決裁文書を公表してくれれば、妻が値引きに関わっていなかったことは明らかだし、私もあらぬ疑いをかけられずに済んだわけです」
「改竄は、佐川さんの指示で課長以下がかかわっていたわけです。そこまで官邸の目は届きません」
「致し方ない面もあるんですよ。昭恵の友人の娘が、森友学園の幼稚園に通っていて、その友人から誘われた話なのです。私が昭恵から森友学園の話を最初に聞いた時は、運営する幼稚園で園児に教育勅語を素読させているし、日本初の神道理念に基づく小学校の建設を目指すというから、なかなかのやり手だなと思ったのです」
「私は密かに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない」等々。
このような発言をヌケヌケとできてしまう鉄面皮の安倍はやはり政治家としては勿論、人間としても「失格」と言えよう。
統一教会との関係を隠蔽
また回顧録には安倍が北朝鮮による拉致問題に取り組んだ旨の記述はあるが、その北朝鮮に日本人から騙し取ったカネを提供していた反日カルト・反社会的邪教集団の「統一教会」と安倍がズブズブだったことに関する記述は皆無である。そもそも「統一教会」というワードが回顧録には無い(付言すると「日本会議」も同様に全く無い)。
改めて述べるまでもないが、安倍は令和3年9月12日に韓国で開催された統一教会のダミー団体の集会でビデオ登壇した際、「今日に至るまでUPFと共に世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁を始め皆様に敬意を表します」などと韓鶴子(統一教会総裁)に敬意を表した。
かかる安倍の所為は、政治家との癒着が断たれれば忽ち消え失せるであろう統一教会を〝日本の総理大臣が敬意を表するほど社会的に認められた活動をしている素晴らしい組織〟とその信者に錯覚させ、以て統一教会が信者から高額献金を貪り易くすることに加担する極めて悪質なものだ。
こうした統一教会との癒着が原因で、安倍は統一教会に家庭を崩壊させられた山上徹也の恨みを買い、白昼堂々、銃撃・殺害されるに至った。
しかるに回顧録はこうした事実関係を隠蔽しているのだ。その上で巻末に岸田文雄や菅義偉が安倍の国葬で読み上げた安倍を賛美した「弔辞」等を収録し、あたかも安倍が「言論テロ」「民主主義に対する挑戦」を目論む卑劣な犯人に襲撃されて非業の死を遂げた偉大なリーダーであったかのように印象付けようとしているから極めて質が悪い。
以上、今般の回顧録は安倍と読売がタッグを組み、安倍にとって不都合な事実を排除し、安倍が好き勝手に語った内容を無批判にまとめ、以て安倍を美化して讃嘆するだけのプロパガンダ本であることを述べた。
櫻井よしこを筆頭に、この害悪極まりない回顧録を絶賛している輩は、ことごとく〝日本の亡国を加速させた安倍の共犯者〟と断じて差し支えない。
今後、機会があれば回顧録の細かな内容に立入り、安倍のペテン性と下劣な人間性を記していきたい。(天皷)