世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

創価学会の衰退が招いた自公対立の深刻さ

世相閻魔帳74「顕正新聞」令和5年6月5日号

 公明党幹事長の石井啓一は本年5月25日
 「東京における自公の信頼関係は地に落ちたと言える。したがって東京における自公間の協力関係は解消する
 との衝撃的な発言を行った。
 自民党公明党の間で今いったい何が起きているのか。

候補者擁立で軋轢

 次の衆院選からいわゆる「一票の格差」是正のため、「10増10減」(地方の選挙区を10減らし、都市部の選挙区を10増やす)が行われる。この影響で地方での議席が減る自民党としては、都市部に新設される選挙区に候補者を擁立したい。
 ところが自民党と連立を組み選挙協力をし合う公明党は、自民党に先んじて新設される選挙区(10のうち2つ)に候補者を擁立すると発表。加えて、更に2つの選挙区でも候補者の擁立を目論んだ。「10のうち4寄こせ」と自民党に要求したと言える。
 だが自民党がこの要求を易々と受け容れるはずがない。そこで自民党公明党の間で候補者調整が行われたものの、自民党は、公明党固執し求め続けた「東京28区」(練馬区東部)での候補者擁立を認めなかった。
 そうしたところ公明党は猛反発。冒頭の石井発言が飛び出したというわけだ。

自民を徹底批判

 石井は冒頭の発言のほか、公明党の常任役員会で決定した方針として、「東京28区」での候補者擁立は断念するが、今後、都内の選挙区で自民党候補は推薦しない、都議選や首長選等でも自民党選挙協力はしない、都議会での自民党との協力関係も解消するなどと息巻き、「これはもう公明党の最終的な方針なので、持ち帰って案を出されても、この方針を変えることはありません」と啖呵を切ってみせた。
 翌日も石井は強気の姿勢を崩さず、「今回の件はこの東京都だけに限定をして、連立に影響させるつもりはない。これは自民党さんに配慮して申し上げたつもりであります」とまで言ってのけた。
 要するに石井は、1選挙区当たり自民党議員は1万から2万の学会員票を獲得していると言われていることを念頭に、〝学会員票が無くなったら選挙に弱い自民党議員は大量落選しますよ?そしたら自民党は困るでしょ?だから協力解消は全国ではなく東京都だけに限定してあげるよ〟と上から目線で言っているのだ。
 公明党選挙対策委員長の西田実仁もツイッターに「『強引だ』と言われるのは甚だ心外です」「『不誠実な対応』はどっち?」「(自民党の対応は)不誠実で、とても受け入れることはできません」などと投稿し、自民党の対応を徹底的に批判している。
 もっとも「選挙協力しないぞ」と自民党を半ば脅して譲歩を迫るのは公明党の常套手段だ。そのため今回の石井らによる自民党批判を「単なるパフォーマンス」「いつもの痴話喧嘩」と見る向きも確かにある。
 しかし公明党幹事長が「自公の信頼関係は地に落ちた」と吐き捨て、首都東京での協力関係解消という余りに強烈な脅しを自民党に突きつける事態にまで発展したことは、20年超の自公連立政権で初ではないか。

公明党=学会政治部

 石井らによる自民党批判は、偏に創価学会の意向によるものだろう。公明党創価学会の「政治部」に過ぎない。ゆえに学会の意向には絶対に逆らえない。たとえ返り血を浴びることになろうが、相手が自民党だろうが突っ張り続けるしかない。
 「朝日新聞」(本年5月21日号)の「『チキンレース』の自公候補者調整 譲らぬ創価学会」と題する記事は興味深い。
 本年5月9日、石井は自民党茂木敏充幹事長から公明党の要求内容の不合理さを指摘された際、「私に言われても……」と黙り込んでしまったというのだ。幹事長の石井ですら候補者調整の実権はなく、所詮は学会の走狗に過ぎないことがよくわかる。

集票力減退に焦る学会

 では、なぜ学会は自民党との深刻な対立を招いてまで新設される選挙区での候補者擁立に拘るのか。その背景には学会の「集票力減退」と「維新の躍進」があると、世間では言われている。
 近年、学会の集票力の減退ぶりは凄まじく、昨年7月の衆院選における公明党の比例得票数は「約618万票」と、過去最高の得票数から200万票以上も減らしている。
 加えて公明党が強固な地盤を有する関西では維新が躍進を遂げており、しかも維新は今般「公明党議席を持つ大阪・兵庫の計6選挙区に候補者を擁立しない」との従前の方針を撤回し、公明党との対決姿勢を鮮明にしつつある。
 学会・公明党からすれば、まさに「泣き面に蜂」。勢いのある維新に関西で敗北することを見越し、負け分を新設される選挙区で取り返そうと考えているわけだ。

不協和音

 これまで自民党と学会・公明党の間には、菅義偉前首相と公明党の選挙全般を取り仕切って指揮を執っていた創価学会副会長の佐藤浩との太いパイプ(通称「SSライン」)があった。
 これにより自公の協力関係が円滑・強固となり「佐藤の判断が、学会選挙の中核をなす婦人部を動かし、全国に広がる巨大組織を操舵する。……佐藤と菅の『SSライン』が、何度となく、安倍政権の危機を救ってきた」(柳沢高志「孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか」)とさえ言われている。
 しかし現在の岸田自民党と学会・公明党との間には「SSライン」に相当するものがない。
 また、そもそも自民党にとって公明党と連立を組む最大の理由は〝選挙の際に学会の支援と強固な組織票が得られるから〟に他ならない。
 総理就任後に池田大作と面会したことを大手マスコミ各紙に報じられた安倍晋三も「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)の中で次のように述べている。
 「選挙での公明党の力は大きい。国政選、地方選ともに、公明党自民党の候補に推薦を出すと、どっと支持が増えるのです。推薦が出る前と比べると、2割くらい上がる。とてつもない力ですよ。公明党を支持する創価学会幹部から、『総理どうです?相当上積みしたでしょ?うちの支持者はちゃんと投票所に足を運んでいますからね』と言われると、もう平身低頭するしかない」と。
 しかし前述のとおり公明党の集票力は著しく減退している。
 そのため自民党議員の中からは「公明の集票力は落ちている」「大きな顔し過ぎ」「公明が離れたら別の団体から支援をもらえるかもしれない」「公明ではなく維新や国民と連立を組めばいい」といった声も上がっているという。

連立の目的は学会への「税務調査回避」

 一方、公明党にとって自民党と連立を組む最大の理由は〝創価学会に税務調査が入ることを阻止するため〟と言われている。
 池田大作の指示を受けて国税庁に働きかけ、池田個人及び学会への税務調査を妨害してウヤムヤにした元公明党委員長の矢野絢也は、自著「乱脈経理」で次のように記している。
 「国税にマークされ、のたうち回る思いをした池田氏が野党である公明党に歯がゆい思いを募らせたことは想像にかたくない。そこで『政権に入らないと』という発言になるのだが、その後、池田氏の野望は細川連立、自自公連立、自公連立政権として実現した。我々は自公政権の功罪を論じる前に、そもそも連立政権誕生の動機が、税務調査逃れと国税交渉のトラウマであったことを確認しておく必要がある」と。
 学会にとって自公の連立解消は、まさに学会崩壊に直結しかねない。だからいかに〝下駄の雪〟と揶揄されるとも自民党に守ってもらうしかない。

学会衰退の根本原因

 今般の自公対立は、偏に学会の「集票力減退」つまり学会の衰退に端を発していると言える。
 学会に集票力があれば、自民党は平身低頭して公明党に協力を願い出るだろうし、公明党も関西の選挙区で維新に敗北することを想定して新たな選挙区での候補者擁立に躍起になる必要など全くなかった。
 学会の衰退原因について、大手マスコミは「学会員の高齢化」や「公明党関係者の不祥事」等を挙げている。確かにその一面もあろうが、それは飽くまで表面的な原因に過ぎない。
 浅井先生は学会衰退の根本原因について
 「吾が一門の人々の中にも、信心もうすく、日蓮が申す事を背き給わば、蘇我が如くなるべし
 との四条抄の一節を引かれ
 「それは申すまでもない。大聖人様の御遺命たる国立戒壇を捨て、剰え戒壇の大御本尊をも捨て奉った大謗法による。戒壇の大御本尊を捨て奉って、保つわけがないではないか。ここに『蘇我が如くなるべし』との仰せのままに、今、いよいよ音を立てて崩れ始めてきたのである
 と指導下さった。
 今回の自公対立がどのような決着を迎えようとも、御遺命を破壊したのみならず極限の大謗法まで犯した学会が、蘇我がごとく崩壊することは疑いない。(天皷)