世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

欺瞞に満ちた原発汚染水の海洋放出

世相閻魔帳②「顕正新聞」令和3年5月5日号

 本年四月十三日、政府は福島第一原発の事故処理で発生する放射性物質を含む汚染水の海洋放出を正式決定した。海洋放出を正当化しようとする政府の説明はこうだ。
 〝東電は多核種除去設備「ALPS」を用いて、原子炉の冷却に使用された高濃度の汚染水から危険な放射性物質を除去する処理をしているが、放射性物質のうちトリチウムは水と構造が似ていて除去できない。しかし、トリチウムは危険性が低く、大量に摂取しない限り人体に影響はないから、濃度を充分に希釈すれば海洋放出しても問題ない。原発を稼働させている他の国も海洋放出している〟と。
 そして、政府は処理後の汚染水に「ALPS処理水」と天然水のような名前を付けたり、トリチウムの安全性をアピールするために、広告代理店「電通」に大金を投じて、人の体内をプカプカと漂う「トリチウム」という〝ゆるキャラ〟を使った動画やチラシを作らせたりして(※批判殺到で公開翌日に姿を消した)、〝処理水は安全〟との印象操作・世論形成に血道を上げ、大手メディアもこれに追従している。
 さて、先に紹介した政府の説明は欺瞞に満ち満ちている。全て挙げるとキリがないため、ここでは急所の二点だけを取り上げる。

処理水の実態は汚染水

 一点目は、海洋放出する「処理水」について、政府はあたかもトリチウムだけが残留しているように装っているが、実は「ALPS」の処理機能は不十分で、トリチウム以外の危険な放射性物質も、依然として「処理水」に残留しているという点である。
 呆れたことに、「ALPS」は導入から現在に至るまでの八年間、ずっと「試験運転」状態で本格運転前の使用前検査すら「未了」という〝ポンコツ装置〟なのだ。
 実際、東電の発表によれば、平成三十年八月の時点では、タンクに保管されていた「処理水」の八十四%に当たる七十五万トンもの中に、トリチウム以外の危険な放射性物質が基準値を超えて含まれていた。そのうち六万五〇〇〇トンには、法令の一〇〇倍を超える放射性物質が含まれており、白血病や免疫不全を引き起こすおそれのあるストロンチウム90などが基準値の二万倍を超えて含まれていた。
 加えて、東電が昨年十二月に公表した資料によれば、たとえ「処理水」を再浄化したとしても、トリチウム以外にストロンチウム90、ヨウ素129、セシウム135など、複数の放射性物質を完全に除去できないことが判明している。これらはいずれも、国連の専門家が「一〇〇年以上にわたって人間と環境にリスクをもたらす可能性がある」と指摘するトリチウムよりも、危険性が格段に高い。
 一体これのどこが「処理水」なのか。政府の説明は、ペットボトルの中身が下水であることを知りながら、「おいしい緑茶」と書かれた見栄えの綺麗なラベルを貼って中身を欺く〝陳腐な詐欺〟に他ならない。

「他の国も…」のゴマカシ

 二点目は、政府の言う「他の国も海洋放出している」というのは、通常の原発排水の話であって、それと日本が海洋放出する「処理水」とでは、危険性のレベルが全く異なるという点である。
 どういうことか。通常の原発排水は、燃料棒が被膜に覆われているので、冷却水が燃料棒に直接触れることはない。一方、「処理水」は原発事故で剥き出しとなった燃料棒に直接触れているため、通常の原発排水には含まれていない〝原発事故に起因する危険な放射性物質〟が複数含まれている。そのため、日本の「処理水」は、他の国の原発排水と比較して危険性が遥かに高い。にもかかわらず、政府は、通常の原発排水と「処理水」が同じものであるかのように論じ、誤魔化しているのである。

 こうした欺瞞を並べ立てて、危険な「処理水」を海洋放出する政府の行為は、現在生きている人々のみならず、将来生まれてくる人々に対して〝毒を盛る行為〟と言い得る。政府は「処理水」を基準値の何百倍にも希釈してから海洋放出すると言うが、希釈したところで海洋放出される毒物の「総量」が減少するわけではない。「基準値」や「濃度」云々というのは詭弁に過ぎない。
 菅首相は、今後「風評被害」の対策に取り組むというが、最も重大な「実害」の問題から目を逸らしているところが詐術的である。いずれにせよ、対策に取り組むというのであれば、まずは海洋放出を決定した菅首相自ら「処理水」を毎日たらふく飲んでみせて、その安全性を証明したらどうか。(S)