世相閻魔帳㊻「顕正新聞」令和4年8月15日号
本年7月7日付けの最高裁判所の決定によってジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBSワシントン支局長・山口敬之から性的暴行を受けたとして損害賠償を求めた裁判が終結し、山口に約330万円の賠償を命じた2審判決が確定した。
裁判所は1審・2審ともに山口が伊藤さんに性的暴行を加えた事実を認定し、〝伊藤さんの同意があった〟との山口の反論については「事実経過と明らかに乖離する」「信用できない」と切って捨てた。刑事手続では明らかにならなかった山口の卑劣な所為が民事裁判で認定されたことで、警察・検察の捜査がいかにお手盛りだったのかが浮き彫りになったと言える。
だが2審判決は、伊藤さんが山口に薬(デートレイプドラッグ)を盛られた可能性があると公表したことは山口の名誉を毀損するとして、伊藤さんにも55万円の賠償を命じている(1審判決は伊藤さんの賠償責任を否定)。山口は加害者の分際で〝名誉毀損だ〟と臆面も無く主張し、伊藤さんに合計1億3000万円もの高額な損害賠償請求(反訴)をしていたのだ。
しかし後述するとおり、伊藤さんが山口から受けた被害を公表した行為は、それを放置していれば安倍晋三とその配下の警察官僚によって闇に葬られかねなかった〝鬼畜にも劣る山口のゲスな所行とその被害〟を明るみにするためにやむを得ず行われたものだ。山口の卑劣な所為を認定して違法と断じておきながら、当該所為に関連する伊藤さんの言動も違法とするのは甚だ疑問が残る。また、同判決の存在により、今後、性犯罪の被害者が被害を訴え出ることに躊躇して泣き寝入りする事態も危惧される。政権の意向を忖度したかのような常識を欠いた2審判決を是正しなかった最高裁の判断には暗澹たる思いしか湧かない。
以下、山口が伊藤さんに性的暴行を加えた事実を闇に葬ろうと蠢動していた安倍とその配下の警察官僚による下劣な隠蔽工作を振り返る。
現警察庁長官が逮捕中止を指示
そもそも、加害者の山口は安倍と昵懇の仲で安倍礼賛本を複数出版している安倍御用達ジャーナリストだ。山口はTBSの社員や他社のメディア関係者の前で何かにつけて安倍に電話をかけ、安倍との仲睦まじさをアピールしていたというコバンザメのような男だ。安倍が銃撃されて死亡した当日も「安倍さんのことなら何でも知っている」とアピールしたかったのか、山口は安倍の死亡が公表される前に「信頼できる情報筋から、救命措置の甲斐なく安倍晋三元首相がお亡くなりになったとの情報が入りました。悔しく、残念です」などとSNSに投稿して、翌々日謝罪に追い込まれている。
そんな山口は平成27年4月3日、酩酊状態にあって意識のない伊藤さんに対して性的暴行を加えた。伊藤さんは同月30日、警視庁高輪警察署(高輪署)に告訴状を提出。「準強姦被疑事件」として捜査に乗り出した高輪署員らは同年6月8日、帰国と同時に山口を逮捕すべく裁判所が発付した「逮捕状」を携えて成田空港で待ち構えていた。
しかし、高輪署員らが山口を逮捕する直前のタイミングで、当時「警視庁刑事部長」だった中村格(現・警察庁長官)が山口の逮捕中止を指示。高輪署員らは山口を逮捕することができなかったばかりか、その後、捜査から外されてしまった。
中村は「週刊新潮」の取材に対し「(逮捕は必要ないと)私が決裁した。(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。自分として判断した覚えがあります」と些かも悪びれずに回答している。だが実際には中村個人の判断ではなく、安倍が捜査に介入して中村に対し、山口の逮捕中止を指示したのが真相ではないか。
安倍は昨年9月、警察官に求められる正義感・使命感が著しく欠如している中村に論功行賞で警察庁長官の地位を与えた。ところが、安倍は中村が警察官として無能だったばかりに〝ザル警備〟で街頭演説する羽目になり、白昼堂々殺害されてしまったのだから、何とも皮肉な話だ。いずれにせよ、中村は速やかに引責辞任すべきだろう。
元内調トップの北村も暗躍か
また、山口は「週刊新潮」から伊藤さんに性的暴行を加えた件について取材を受けた際、スパイ活動を行う情報機関「内閣情報調査室」のトップ(内閣情報官)で〝安倍官邸のアイヒマン〟の異名をとる北村滋(元国家安全保障局長)に助けを求めようとしたことが判明している。
北村は警察庁警備局外事情報部長等を歴任した外事・インテリジェンス(機密情報)分野に長けた警察官僚であり、特定秘密保護法の名付け親とも言われている。陰険な安倍は北村を重用し、北村に様々な情報を収集させて逐一報告を受けていた。第二次安倍政権下で安倍と面会回数が最も多かった官僚は北村だったという。
なぜ山口が北村に助けを求めようとした事実が判明したかと言うと、「週刊新潮」からの突然の取材に狼狽した山口が「北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。伊藤の件です。取り急ぎ転送します」とのメールを北村ではなく、誤って「週刊新潮」編集部に送信してしまったからだ。
山口が北村に送信する予定だったメールには「伊藤の件」としか記載されていないことから、山口は同メールを送信する以前、つまり伊藤さんに性的暴行を加えた後にそのことが表沙汰にならないよう北村に後始末を相談していたと考えられる。安倍が山口に「北村を頼れ」とアドバイスしたのか、或いは北村に「山口を助けてあげてほしい」と依頼したのかは不明だが、どちらにせよ中村のみならず北村も山口の卑劣な所為を闇に葬ろうと暗躍していた疑いがあるのだ。
安倍の死後 特捜部が躍動
安倍の配下の警察官僚の暗躍によってか、平成27年7月、山口は刑事手続において嫌疑不十分との理由で不起訴処分となり、翌年9月には検察審査会も山口を「不起訴相当」と議決し、山口を被疑者とする準強姦被疑事件は完全終了してしまった。レイプ犯の山口はまんまと刑事責任を逃れ、現在もジャーナリストとして何食わぬ顔でしゃあしゃあと活動している。度し難いことに山口は検察審査会の議決が出た直後、ニヤニヤ笑いながらネット番組に出演して安倍応援団の上念司や和田政宗(自民党参議院議員)らと祝杯まであげていた。かかる下劣な輩はメディア・言論界から追放しなければならない。
断罪されるべき輩を逃がした安倍の所為は到底許されないが、冷酷で無能な安倍が警察・検察を「アンダーコントロール」していた実態には改めてゾッとする。
安倍の死後、東京地検特捜部は呪縛から解き放たれたかのように、安倍が招致に深くかかわった東京五輪に関連した汚職事件の捜査を唐突に本格化させた。
特捜部は本年7月26日、受託収賄容疑で日本最大手の広告代理店「電通」の元専務で大会組織委員会理事を務めた高橋治之の自宅や会社、さらには組織委のマーケティング専任代理店として大会スポンサー企業の選定に深くかかわった電通本社を、翌27日には高橋の会社に多額の資金提供をしていた紳士服大手「AOKIホールディングス」の前会長宅等を、翌28日にはAOKIホールディングス本社をそれぞれ家宅捜索している。これらの事件も安倍が生前に捜査させないよう捜査機関を抑え込んでいたのかもしれない。
〝すべての疑惑は安倍に通ず〟と言われて久しい。今後、捜査機関の徹底捜査によってこれまで闇に葬られてきたあらゆる疑惑が解明されていくことに期待したい。(天皷)