リコール署名偽造事件の闇に蠢くもの

世相閻魔帳⑥「顕正新聞」令和3年6月15日号

 本年五月十九日、愛知県警は、大村秀章・愛知県知事のリコール署名運動を行った団体(会長は「高須クリニック」院長・高須克弥)で事務局長を務めた田中孝博容疑者ら四人を地方自治法違反(署名偽造)の疑いで逮捕した。
 また、署名運動に参加し署名を集めた男性は、「不正問題に巻き込まれた」として高須や田中容疑者らを提訴、五百万円の損害賠償を求めている。

署名偽造事件の概要

 リコールとは、一定数の署名を集めることで、知事を辞めさせることの是非を問う住民投票が行われる制度(解職請求)である。
 高須らは、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」にて、昭和天皇の肖像をコラージュした版画を燃やす場面がある映像作品等が展示されたことを問題視し、芸術祭の実行委員会長を務めた大村知事のリコールを目指す団体を結成。河村たかし名古屋市長のほか、百田尚樹竹田恒泰武田邦彦、有本香、門田隆将といった著名な右派論壇の応援を受け、昨年八月下旬より署名集めを開始した。
 ところが、高須らの署名集めは遅々として進まず、リコールに必要な署名数(約八十六万六千人)の一割も集まらなかった。「このままでは高須会長のメンツは丸潰れ、リコール不成立でもある程度の数を集めなければ…」などと考えた田中容疑者らは、〝アルバイトを動員して署名を大量に偽造する計画〟を立て、昨年十月下旬に実行する。
 結果、提出署名の約八十三%(約三十六万二千人分)が無効だったというのだから、呆れるほかない。「偽りの民意」をでっち上げた田中容疑者らの所為は、到底許されない。

日本会議の関与?

 ところで、実際にリコール運動を手伝ったスタッフは、こんな証言をしているという。
 「田中容疑者は部屋に持ち込まれた2つの箱を指さして、自民党大物政治家に近い団体の名前をあげ、『〇〇〇〇からの署名だ』と話した。今も記憶があります。変なことを言うなと思いました。今振り返れば、それが偽造署名の原本だったのでしょうね」(AERAdot.本年五月十九日記事より)と。
 この証言が事実だとすると、「自民党大物政治家に近い団体」が署名偽造事件に関与したことになろう。自民党大物政治家と聞いてパッと思いつくのは「安倍前首相」、となると「〇〇〇〇」は「日本会議」だろうか。
 たしかに、署名偽造が発覚した当初から「日本会議が事件に関与しているのでは」との疑惑が浮上していた。と言うのも、昨年九月、高須は日本会議本部を訪問し、事務総長の椛島有三らと面談、リコール運動への協力を求めているのだ。
 日本会議は署名等の「草の根運動」を積極的に行っており、現在も櫻井よしこが共同代表を務める別動隊「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が、憲法改正の賛同署名を募集している。日本会議が事務局を務める靖国神社での集会で「特別顧問」を務めている高須が、経験豊富な同組織に協力を求めたことは当然ともいえる。
 ちなみに、高須が面談した椛島は、日本会議の事実上のトップと評されている人物。そんな椛島らと面談している写真を、高須はツイッターにうっかり投稿(その後削除)。このことについて本年二月の記者会見で質問された高須は、椛島と面談して協力を求めたことを認めた上で、「すごく好意的に僕の話は聞いてくださいました」と回答した。
 椛島との面談から暫く経過した頃、高須から「これからの一週間で急激に、さらに(票を)積み上げる計画」と、署名偽造を仄めかすような発言が飛び出す。そして、この発言と符合する期間に、「佐賀県青年会館」で署名偽造のアルバイトが実施されたのである。
 何とも興味深いことは、佐賀県青年会館を運営する団体の理事長が、日本会議佐賀の名誉会長・大坪勇郎(本年四月死去)ということである。貸会議室のような施設は全国に数多存在する中、なぜ、日本会議幹部の運営する施設が署名偽造の場となったのか。これを「偶然」の一言で片づけるのは困難だろう。

民意捏造のプロ

 今回の事件を「大胆で無謀」「発覚して当然」と考える人も多いかもしれないが、実はそうではない。
 選挙管理委員会は、署名が必要数に届かない限り、署名が自筆であるかを審査せずに返却するため、必要数以下であれば偽造が発覚せずに済む可能性もあるという。こうした制度の死角に目を付けたのであれば、まさしくプロの犯行といえる。
 署名偽造が発覚した際、高須はツイッターに「手慣れたプロの仕業だ。こんなことのやれるノウハウがない」などと投稿。ならば田中容疑者らはそのノウハウを誰から学んだのか、無い頭を振り絞って考え出したのか、疑問は尽きない。
 また、今回は偶々偽造が発覚したが、そうしたノウハウを有する連中が過去にまんまと捏造した民意、或いは、現在捏造中の民意があるかもしれないと思うと、ゾッとする。闇で蠢く卑怯・姑息な連中を炙り出し、徹底糾弾する必要がある。
 いずれにせよ、今後、警察等の徹底捜査により、高須や日本会議が署名偽造に関与したのか否か、真相が明らかになることを期待したい。(天皷)