世相閻魔帳

顕正新聞のコラム「世相閻魔帳」

一億円もの血税で安倍晋三を守った国の卑劣

世相閻魔帳㉕「顕正新聞」令和4年1月15日号

 森友問題で公文書の改ざんを強いられた近畿財務局職員・赤木俊夫氏の妻である雅子さんが国を相手取って一億一千万円余りの損害賠償を求めた裁判で、令和三年十二月十五日、国は徹底抗戦の構えを一転させ、雅子さんの請求を「認諾」した。
 「認諾」とは、訴えられた者(被告)が訴えた者(原告)の請求を全面的に認め、賠償金を全額支払い、原告勝訴という形で裁判を直ちに終結させる手続のことをいう。
 国の「認諾」によって、約一年九ヶ月にわたる裁判は雅子さんの勝訴で終結した。
 国が賠償責任を全面的に認めたことは良い判断で、雅子さんにとって望ましい結果になったと思う人がいるようだが、決してそうではない。勘違いをしてはならない。
 かかる国の所為は卑劣極まりなく、許されざるものだ。雅子さんは「ふざけんな」と憤っている。なぜか。以下、詳述する。

卑劣極まる〝認諾〟

 はじめに、雅子さんが国を訴えたのは「夫がなぜ死んだのか」を知るため、つまり俊夫氏が自殺を余儀なくされた原因と経緯、俊夫氏の抵抗に財務省がどう対応したか等について、裁判手続を通して明らかにするためだった。
 検察が安倍晋三元首相らに忖度して公文書改ざんに関与した財務省関係者を全員不起訴とし、政府も森友事件の再調査を断固拒絶している以上、真相に迫る術は国に対する裁判しかない。
 しかし、裁判では相手に対して「事件の真相を話せ」とストレートに請求することができないルールとなっている。そのため、真相に迫るためには、「賠償金を支払え」という形で相手を提訴して、裁判内の手続で相手が所持する資料の提出や事件関係者に対する尋問の実施を求めていくしかない。
 ゆえに雅子さんは、俊夫氏の死の真相に迫るために国家賠償請求訴訟を起こした。何もお金が欲しかったわけではない。
 当然、国は雅子さんが提訴に踏み切った目的等を百も承知している。しかし、事件の真相を隠蔽したい国にとって、雅子さんが起こした裁判は迷惑以外の何物でもない。裁判が続けば隠蔽した資料の提出や公文書改ざんに関与した財務省関係者に対する尋問の実施は避け難く、不都合な事実が次々と明らかになるおそれがあるからだ。
 かくして国は約一年九ヶ月にわたり、資料を「探索中」と誤魔化すなどして出し渋り、裁判を遅延させるという姑息な戦略も用いながら徹底抗戦を続けてきた。
 しかし、本年二月以降に財務省関係者の尋問等を実施することとなり、国がどう足掻いても尋問は避けられない見通しとなったという。
 そこで今般、国は背に腹は代えられないゆえに、雅子さんの請求を「認諾」するという〝奇策〟に打って出た。
 要するに、国自ら「全面敗訴で構いません」と宣言し、税金で賠償金一億一千万円余りを雅子さんに支払って、裁判を即時かつ強制的に終結させ、森友事件の真相に迫る唯一の道を完全にシャットアウトしたのだ。卑劣・非情な仕打ちと言うほかない。
 〝敗訴の汚名も何のその。森友事件の真相に蓋をして揉み消せるのなら一億円なんて安い安い。その原資は国民から徴収した税金だから、俺たちの懐を痛めるわけではない。遺族の気持ちなど知ったことか。急いで認諾してしまえ〟
 そうした打ち合わせを国の関係者らが謀議している様がありありと目に浮かぶようだ。

「認諾」は最終手段

 余談だが、国は、裁判を通して国にとって極めて不都合な事実が明らかになりそうになると、徹底抗戦の構えを一転して「認諾」することが稀にある。
 過去の例を示す。あるNPO法人は、日米両政府間の協議機関であり、一部からは〝日本政府の上に君臨する闇の組織〟とも言われている「日米合同委員会」の議事録を情報公開請求するも「不開示」だったため、国を提訴した。
 当初、国は徹底抗戦の構えだったが、日米当局間のメールの内容を裁判官が閲覧する手続の実施が決まった途端、突然「認諾」して裁判を強制的に終結させ、同手続を回避している。
 このように、「認諾」は裁判で国が隠蔽したい事実・情報の漏洩を防ぐときに用いられる最終手段なのだ。

不都合な真実

 では、国が雅子さんとの裁判、すなわち森友事件について最終手段に及んでまで隠蔽しようとした事実は何だったのか。
 そもそも、森友事件は園児に「教育勅語」を朗唱させるなど愛国教育をしていた「森友学園」(理事長は日本会議大阪の役員であった籠池泰典氏)の教育方針に共鳴した安倍晋三が、同学園にほとんどタダ同然で国有地を払い下げるよう仕向けた疑いのある事件だ。
 その疑惑を裏付けるかのように、財務省は安倍が国会で「私や妻が、もし小学校の設立や国有地払い下げに関与していたら、総理大臣はもとより国会議員も辞任する」と大見栄を切った直後より、国有地取引の経緯を記した公文書を改ざんした。
 具体的には、現在、明らかになっていることだけでも、学園の理事長・籠池泰典氏が所属していた日本会議大阪と日本会議の関係、「日本会議国会議員懇談会」の副会長に安倍が就いていること、同懇談会の会長・平沼赳夫が秘書を通じて財務省に圧力をかけたこと、安倍の妻・昭恵が籠池氏と一緒に現地の前で並んで写真撮影したこと、昭恵が森友学園の教育方針に感涙したことを紹介する記述等を削除したのだ。
 こうして見ると、財務省が公文書改ざんに及んだ理由は、偏に安倍の政治生命を守るためだったとしか考えられない。その挙句、改ざん作業を強要された俊夫氏は自殺に追い込まれた。
 要するに、「悪事を企む時の最高権力者の政治生命を守るという下劣な理由で、国が真面目な近畿財務局の職員を死に追い込んだ」という国による殺人行為、これこそ国が隠蔽したい事実ではないのか。そうであれば、諸悪の根源である安倍が未だに政界にのさばっていることは断じて許されない。
 しかしながら、岸田首相は安倍に諂ってか森友事件の再調査を拒絶している。今般の「認諾」もその前日に報告を受けていた。「『聞く力』は誰よりも優れている」と宣う岸田は、雅子さんの悲痛な叫びや国民の怒りの声を聞く力は皆無らしい。
 また、国家権力を監視すべき大手マスコミは政府の広報機関に成り下がり、森友事件における安倍の責任等を厳しく追及しない。かかる腑抜けた報道姿勢がこの国を狂わせている原因の一つである。
 安倍の逃げ切りを絶対に許してはいけない。(天皷)